快適で健康的な住環境の実現と光熱費削減を目指す断熱改修は、近年多くの住宅所有者から注目を集めています。しかし、単に断熱材を追加するだけでは真の効果は得られません。成功する断熱改修には、現状の正確な把握と綿密な計画が不可欠です。
本記事では、断熱改修を検討される方々に向けて、専門的な診断から施工完了まで、失敗しないための具体的なプロセスをご紹介いたします。

1,断熱性能診断:現状を把握する
断熱診断の重要性
断熱改修の第一歩は、現在の家の断熱性能を正確に把握することです。多くの方が「冬寒い」「夏暑い」という感覚的な不満は持っていても、その原因がどこにあるのかを具体的に理解していません。
現状を把握することで、最善を目指す方向性が見えてくるのです。
現地調査と図面解析で調べる事
- 既存断熱材の種類・厚さ・施工状態確認(非破壊 目視の範囲)
- 構造材と断熱材の取り合い詳細確認(非破壊 目視範囲)
- 開口部の種類・大きさ
- 敷地の状況(近隣の建物との関係・方位)
断熱診断で明らかになること
- 住宅全体の熱貫流率(U値)
- 各部位(壁・屋根・床・開口部)の熱貫流率(U値)
- 結露リスクの高い箇所
- なぜ夏暑く寒いのか

2,耐震診断:安全性の確保が最優先
耐震診断の必要性
断熱改修を行う際、耐震性能の確認は決して軽視できません。特に1981年の新耐震基準施行前に建築された住宅では、断熱改修と同時に耐震補強を検討することが強く推奨されます。
注意:断熱改修で壁を解体する際に、構造上重要な筋交いや耐力壁を誤って除去してしまうリスクがあります。事前の耐震診断により、このような事故を防止できます。

現地調査と図面解析で調べる事
耐震知識に長けた建築士による診断では、以下の項目を詳細に調査します:
- 地盤・基礎の状態
- 基礎のひび割れ・沈下状況
- 基礎と土台の接合状態
- 構造躯体の評価
- 柱・梁・土台の腐朽・蟻害状況
- 接合部の金物設置状況
- 構造材の変形・損傷確認
- 構造材の大きさ
- 耐力壁の配置と性能
- 必要壁量に対する充足率
- 耐力壁の配置バランス
- 開口部による耐力壁の欠損状況
断熱診断で明らかになること
- 建築基準法以上の安全性が担保されている構造であるか
- 強度バランスが適正か
- 経年劣化により耐震性が損なわれていないか
3,建物全体の状況確認:包括的な現状把握
断熱改修を成功させるためには、断熱・耐震性能だけでなく、建物全体の状況を包括的に把握する必要があります。
各部位別の詳細確認は必須
屋根・屋根裏
- 屋根材の劣化状況(瓦のずれ、金属屋根の錆び、防水層の損傷)
- 野地板・垂木の状態確認
- 小屋裏の換気状況と結露の有無
- 既存断熱材の劣化・沈下状況
- 配線・配管の設置状況
外壁・壁
- 外壁材の劣化・損傷状況
- シーリング材の劣化状況
- 内壁の結露・カビ発生状況
- 壁内断熱材の施工状況確認
- 電気配線・配管との取り合い
床・床下
- 床材の劣化・きしみ状況
- 床下の換気状況
- 床組材の腐朽・蟻害状況
- 床下断熱材の脱落・劣化状況
- 給排水管・ガス管の状況
設備機器の状況確認
断熱改修により住宅性能が向上すると、既存設備の能力が過大になる場合があります。適切な設備選択のため、以下の確認を行います:
- 暖冷房設備:能力・効率・設置年数・メンテナンス状況
- 給湯設備:給湯能力・配管経路・更新時期の検討
- 換気設備:換気量・フィルター状況・ダクト経路
- 電気設備:分電盤容量・配線状況・コンセント配置
4,詳細ヒアリング:個別最適化への道筋
技術的な診断と並行して重要なのが、住まい手のライフスタイルや将来計画を詳細に把握することです。同じ住宅でも、住まい方によって最適な改修内容は大きく異なります。
家族構成と将来計画の確認
現在の家族構成
- 家族人数と年齢構成
- 在宅時間のパターン(平日・休日)
- 各居室の使用頻度と用途
- ペットの有無と影響
将来の家族構成予測
- 5年後、10年後の家族構成変化
- 子育て期間の終了時期
- 高齢期における住まい方の変化
- 二世帯居住の可能性
居住期間と改修目的の明確化
改修計画の方向性を決定する重要な要素として、以下の点を詳細に確認します:
- 居住予定期間
- 10年未満:費用対効果重視の部分改修
- 10-20年:バランス型の段階的改修
- 20年以上:性能最大化を目指す全面改修
- 改修の主要目的
- 快適性向上(温熱環境の改善)
- 健康維持(結露・カビ対策、ヒートショック予防)
- 経済性向上(光熱費削減、資産価値向上)
- 環境配慮(CO2削減、持続可能性)
住宅への評価と要望の整理
現在の住宅の好きなところ
- 間取りや動線の良さ
- 採光・通風の良好な箇所
- 思い入れのある仕上げ材や建具
- 庭や外構との関係性
現在の住宅の改善したいところ
- 温熱環境の不満(寒い・暑い・結露など)
- 音環境の問題(防音・遮音性能)
- 使い勝手の悪い間取りや設備
- メンテナンス性の課題
予算設定と優先順位の決定
現実的な改修計画のため、予算を多角的に検討し、優先順位を明確化します:
- 予算の設定
- 希望予算:理想的な改修を実現するための予算
- 最適予算:費用対効果を最大化する現実的な予算
- 最大予算:何らかの事情で追加投資可能な上限予算
- 工事項目の優先順位付け
- 必須項目:安全性や最低限の性能確保に必要な工事
- 推奨項目:快適性向上や将来的な利益につながる工事
- 希望項目:可能であれば実施したい付加価値的な工事
- 将来項目:今回は見送り、将来実施を検討する工事
5,品質を決定する三つの要素
断熱改修の成否は、素材や製品の性能だけでは決まりません。真の品質は、以下の三つの要素が適切に組み合わされることで実現されます。
技術力:確実な施工の実現
求められる技術力
- 断熱施工技術
- 断熱材の特性を理解した適切な施工
- 気密処理の確実な実行
- 熱橋対策の実践
- 建築技術
- 既存建物への的確な施工技術
- 構造への配慮と補強技術
- 各種仕上げ材との取り合い技術
- 品質管理技術
- 施工品質の確認・検査技術
- 性能測定・検証技術
- 不具合発生時の対応技術
知識力:最適解を導く専門性
断熱改修には、単一分野の知識では対応できない複合的な専門性が求められます:
- 建築物理学的知識
- 熱・湿気・空気の移動メカニズム
- 結露発生条件と対策
- 室内環境と健康への影響
- 材料・構法知識
- 各種断熱材の特性と適用条件
- 気密材・防湿材の選択と施工法
- 既存建物への適用可能性評価
- 法規・基準知識
- 建築基準法、省エネ基準への適合
- 各種認定制度の要求事項
- 補助金制度の活用方法
経験値:実践に基づく判断力
重要な経験領域
- 多様な建物種別での施工経験
- 木造・RC造・鉄骨造それぞれの特性理解
- 築年数による施工上の注意点把握
- 地域特性(気候・風土)への対応経験
- トラブル対応経験
- 想定外の既存状況への対応
- 施工中の問題発見と解決
- 完成後のメンテナンス対応
- 性能検証経験
- 改修前後の性能測定実績
- 住まい手の満足度フォロー
- 長期的な性能維持の確認
まとめ:成功する断熱改修への道筋
断熱改修の成功には、科学的な診断に基づく現状把握と、住まい手のライフスタイルに合わせた計画立案、そして確かな技術・知識・経験を持つ専門家による施工が不可欠です。
成功への5つのステップ
- 断熱性能の科学的診断による現状把握
- 耐震性能確認による安全性の担保
- 建物全体の包括的状況確認
- 詳細ヒアリングによる個別最適化
- 技術力・知識力・経験値を備えた専門家による実施
これらのプロセスを丁寧に実行することで、快適で健康的、かつ経済的な住環境を長期間にわたって享受できる断熱改修が実現します。投資に見合う確実な効果を得るために、ぜひ専門的な診断から始めることをお勧めいたします。
実は、改修工事には豊富な経験と知識が必要不可欠なのです。しかし、改修工事をちょっとした手直しの延長線上で考えてしまう事が多く、改修工事を行う会社には建設業許可証も建築士も存在しないという現実があります。
大切な大切な愛着のある我が家を改修する上では、未来の事も考えている会社に依頼してください。
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